旅に出よう、日本全国好きになるまで
夏になると、自転車旅をする。
ここ3年、続いている習慣だ。
炎天下の峠越えもある。台風にやられることもある。
それでも行ってしまうのは、あの出会いがあったからだろう。
初めての1人旅。
死にかけの僕に良くしてくれた、宿の主人との出会いが。
ー*ー*ー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ー
2年前のこと。
就活が嫌で、大学院へ逃げた。
勉強へ熱意があるわけでもないが、何もしないのはもっと嫌だ。
いい機会かもしれない。1人旅をしよう。
大学時代、夏はサイクリングサークルでの北海道ツーリングが恒例だった。
だが、1人旅は未経験だ。
もしかしたら、コンプレックスのコミュ障も、少しはマシになるかもしれない。
行きたくない気持ちに蓋をし、宿を予約した。
旅程は、2泊3日。
東京から、水上温泉を経由して日光まで行く。
だが、行く手には思った以上のことが待ち受けていた。
今回は、1番つらかった初日の夜について書こうと思う。
時期は6月の終わり、初夏。
朝7時、東京の自宅を出る。
何回もやっているので、自転車旅のノウハウはある。
たがいかんせん、運動不足の体に150kmはキツかった。
宿まであと20kmのところで両足が攣る。
ジェル飲料を飲み、回復を試みた。
18:30、騙し騙し走り、何とか到着した。
夕飯の時間には間に合わなかったけど、宿の人は嫌な顔一つせず歓迎してくれた。
無事辿りつけたし、宿の人も親切だしでホッとする。
夕飯は台湾から来た方が話し相手になってくれた。正直疲れすぎて食欲が無かったのだが、話しながらだと不思議と食べられる。
台湾では、空前の自転車ブームらしい。火付け役は、台湾を一周する映画が流行ったことらしい。
食後、宿の主人がホタルのいる場所へ案内してくれた。
初めて見たホタルは、思ったより小さく、貧弱だった。
それでも、独特のリズムで明滅する光は、今生きていることを主張してるようだった。
ペダルの一漕ぎ一漕ぎの積み重ねがゴールに繋がるように。
彼らも必死に今を重ねているのだろう。何となくだが、明日も頑張ろうと思えた。
ホタルの後は、主人の案内で温泉へ。
足が攣った話をしたので、疲労回復に効く湯を選んでおいたとのこと。
温泉は疲れが染み出るようで、最高だった。
もちろん、浸かるのはほどほどに。
少しでも攣った足が治るよう、何回も伸ばし/揉みほぐし/叩く。
多分、20分以上は続けたと思う。
問題は温泉から上がった後に起こった。
財布が、ない。
頭が真っ白になった。
動揺しておぼつかない足取りで、入り口・受付・脱衣所を探す。
しかし、見つからず。
数分経つと、少し冷静になってきた。盗られたタイミングを考察するに、おそらく
・受付から温泉への通路で、ポケットから落とした
・入れ違いで風呂から上がった地元ヤンキーが回収
という流れだろう。
若干涙目で主人に報告すると、
「まず警察に行こう」
「で、遺失物届けを出す」
「あとクレジット止めよう」
等、適切な対応を一緒にやってもらえた。
車で交番まで送ってくれたりと、本当にありがたかった。
さて、問題は残りの旅程2日のお金をどうするかだ。
色々あったが、そもそもまだ旅の初日。
せっかくここまで来たのだから、できることなら続けたい。
恐る恐るお金を貸してもらえないか尋ねると、快諾してもらえた。
主人にはいくら感謝してもしたりない……!
盗難諸々の手続きが終わると、後は寝るだけだ。
明日も走るのに、初日にしてダウン。
財布問題は解決したが、体力は赤ゲージ状態。
だが、しかし。
せっかくここまで主人に良くしてもらったのだ。
こうなったら、意地でもやり遂げたい。いや、やり遂げる。
そう決意し、床に就くのだった。
ー*ー*ー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ー
結局、翌日は100km・獲得標高2000mを走りきった。3日目はヒルに噛まれ、血を垂れ流しながらも電車で無事(?)帰宅したのだが……。それはまた別の話。
さて。そんな主人の言葉で1つ印象に残ってるものがある。
それは
「こんなこと(財布盗難)があったけど、水上温泉のことは嫌いにならないでね。」
だ。
口には出さなかったが。
心の中、全力でツッコんんだのは言うまでもない。
「なるわけないじゃないですか!!!」
と。
水上のことは今も大好きだ。現在も、定期的に再訪している。
もちろん、水上だけではない。
旅をする度、好きな場所は増えていく。
僕にとって夏は、旅の季節であり、好きな場所が増える季節だ。
時々考えることがある。このまま毎年続けたらどうなるのだろう、と。
いつか日本全国に好きな場所ができるのだろうか、と。
もしそうだったら素敵だな。
そんな、脳内お花畑なことを考えてしまうから。
僕はまた旅に出るのだろう。
屋久島ゼロ to ゼロ:三日目
※3日目は違う文体でお送りします。
この日は、淡々と無心に歩き続けました。
精神状態を反映し、無味乾燥な文体で記述します。
三日目:新高塚小屋→宮之浦港
3:00
風の音で起きた。
目が冴えて寝れなさそうだ。活動を開始する。
テントは凍っていない。 今日は暖かいようだ。
朝ごはんにツナパンを食べる。
ランタン・ヘッドライトを頼りにテントを畳む。
風の唸りが聞こえるが、あまり大きくはない。密集した木々が風を防ぐのだろう。
撤収が終わることには雨がパラついていた。
4:20
新高塚小屋出発。
山小屋泊の人は、誰も出立していないようだ。起きている人に挨拶し、小屋を後にする。
日が昇るまで2時間。暗い中での山行に憧れてたので、テンションは上がり調子だ。
山道は真っ暗で、明かり一つない。当たり前だ。
道を見失いかけることもあるが、冷静に周りを見渡せば大丈夫。
花山歩道で鍛えたルートファインディングの成果だろう。
暗くて写真も撮れない中、淡々と進む。
5:20
高塚小屋到着。
この時間になると起ている人も多い。だが歩き出してる人はいない。
日は明けていないし、当然か。
弱い雨が降ったり止んだりしている。
早くからの降り始めに、憂鬱さが増す。
5:30
縄文杉。暗くてほとんど見えない。
ここに来るのは10年ぶりだ。前回は家族旅行だった。
来たことある場所に、少し心強くなる。何も見えないけど。
しとしと降る雨の中、歩き続ける。
夫婦杉・大王杉を通過。縄文杉周辺は木道が整備されていて歩きやすい。
5:45
徐々に明るくなってきた。
2時間歩き詰めだと小腹が空く。
荷物を降ろし休憩。どら焼きを食べる。
雨脚は強くなっている。本降りもそう遠くないだろう。
行ける内に行けるとこまで行きたい。
歩きながら食べられるよう、羊羹をポケットに入れる。
次の休憩は2時間後、それまで頑張ろう。
6:00
ウィルソン株到達。ハートの写真を撮る余裕は、ない。そんな暇があったら先へ進みたい。
雨は降り続き、登山道は水浸しだ。水たまりに足をつっこみ進む。
無心に歩き続ける。
マイナスなことを考えてはいけない。前に進めなくなってしまう。
経験則からして、この程度の雨なら大丈夫。
今は歩き続けることが重要だ。
7:00
大株歩道入口。
線路道が始まる。なだらかな下りに癒される。もちろん、雨・風は続いているが。
関節痛・筋肉痛はなく、体のコンディションは上々。
ジオラインのおかげで体も冷えていない。
生還への希望が見える。
大株歩道では、結構な頻度で登山者とすれ違った。
恐らく、荒川登山口から夜明けと共に登ってきたのだろう。挨拶しながら進む。
中には「どこから来たの?」と聞いてくれる人もいた。
「花山歩道から3日かけて縦走です!」と言うと「山男だ!」と返してくれた。
励まされる。
山男か。本職は自転車なのに、何でこんなことしてるんだろう(笑)
8:30
楠川別れ。
左に行くと白谷雲水峡、右に行くと荒川登山口だ。
左に折れ、白谷雲水峡を目指す。
この後、人とすれ違う頻度は低くなった。
やはり、荒川登山口から縄文杉を目指す人たちだったようだ。
(※縄文杉へ行くには、荒川登山道が一番楽)
すれ違った人数は、3桁届く程度だろうか。屋久島の人気は本物だ。
天気の悪さなんて関係なく、多くの人が訪れる。
1回道に迷ったが、冷静に地図を見返し事なきを得た。
10:00
線路が終わり、辻峠を越え、白谷山荘へ。
雨・風はさらに強くなってきた。もはや嵐と言っても過言ではない。
雨の様子:
さて、今回の縦走の究極の目的は大川林道入り口→楠川の「標高0 to 0」だ。
しかし、楠川歩道は道が分かりにくい上に滑りやすいことで有名な道らしい。
嵐の日にエスケープルートのない危険な道に入るのは自殺行為だろう。
だとすると0 to 0は諦めることになるが、背に腹は変えられない……。
白谷山荘には、休憩してるガイドさんがいた。聞くと、やはり雨の楠川歩道は止めた方がいいとのこと。
しかし、0 to 0を目指してると聞くと、
「それなら、白谷雲水峡から(舗装された道を使って)自力下山するって手もあるんだよ」
と言われる!
向こうとしては冗談のつもりだったのだろう。だが、僕としては天啓だった。よし、やろう。
お湯を沸かし、カルボナーラを食べ、はちみつ紅茶を飲む。
酷い雨に、さすがのゴアテックスも浸水してきた。
ショボい雨具を着てたら、相当辛いことになってただろう。
ジオラインがあるとはいえ、多少冷える。
10:50
出発。
この先、登山道入り口へ至る道は2本ある。
一つは奉行杉・三本足杉を回る蛇行ルート。
もう一つは、まっすぐに距離を稼ぐルート。
もちろん、後者の道を行く。
今日は雨が強すぎる。登山道はずっと水たまり状態だった。
休んでいる間に本降りが始まり、道は川になっていた。
登山道だが、上から下に水が流れている。
「雨の屋久島はいい」なんて寝言を言ったのは誰だ。
そいつを嵐の屋久島に放置し、数時間後にも同じことを言えるのか、問いただしたい。
小屋から10分ほど歩いただろうか。登山道が途切れ、眼前に川が現れた。
これを越えるのは……素人には荷が重すぎる。
引き返しもう一つのルートを辿ることにする。
川の近くには、ちょうどガイドさんとツアー客がいた。黙って通り過ぎるのも不自然なので一声かけておく。
「川すごいですね!危ないんで、もう一つの道に行こうと思います。」
「もう一つの道は水没して通れないよ!宮之浦行くんならここを越えるしかない!」
「え?(°_°)」
通るしかないらしい。
ちょうど、向こう岸にもガイドさん・ツアー客がいた。
ガイドさんは客に渡り方の見本を見せている。
確かに、よく見ると縁石が(水面下に)見える……。
思い切って縁石へ踏み込んでみる。
確かに、落ち着いて渡れば大丈夫そうだ。
でもこれ、ガイドさんの見本なかったら無理だったかも……。
後で聞いたところだと、ここで流されて亡くなった方もいるようです。
雨の日は気を付けてください。無理だと思ったら引き返した方がいいです。
11:45
無事、嵐の白谷雲水峡を脱出。
ここからは舗装路だし、命の危険はもうないだろう。
と、思ったが「宮之浦まで9km」の看板が全力で心を折りに来る。
舗装路に入った途端、雨が弱くなり、時折青空さえ覗くようになった。
生還へのご褒美?嫌味?
当然ながら、もっと早く晴れろよ!!!って気持ちしかない。
淡々と、無心で歩く。意識が体に向かないように、音楽をかける。 かけたのはこれ↓
金精峠で、死にかけのモナに力を与えた希望のBGMだ。
今回の疲労なんて、あの時のモナと比べれば全然大したことないだろう。
自転車旅では、「今日は目的地にたどり着けないかも」と思う瞬間が何回もあった。
今回の縦走はハードだったけど、絶望することはなかった。許容範囲内だ。
14:20
休み休み歩き、ついに残り5kmまで来た。
一回大休憩を取り、最後のパンを食べる。
残り半分も頑張ろう。荷物を背負い、歩く。
いよいよ踏ん張れなくなってきた。
惰性で歩き、脚ではなく杖で踏ん張る。
手の皮が酷いことになるだろうが、致し方あるまい。
バスが何度も通り過ぎる。徒歩で下山していると、二度見される。
乗客に対しては見栄を張りたくて、心なしか背筋を伸ばし余裕アピールする。
そして見えてくる宮之浦港。 まだまだ距離はあるけど……。 淡々と歩き続ける。
16:10
ついに宮之浦へたどり着いた。
ついにやり切ったのだ。足の裏は痛いし、ストックを支えた手もボロボロだ。
しかし、勝ちは勝ちだ。劇的な達成感はないけど、じわじわと嬉しさが込み上げる。
この日の宿は素泊まり民宿フレンドだ。
ここはユースみたいに旅人同士で集まる時間があるらしい。
宿に荷物を置き、すぐに外へ。
僕にはやらねばならぬことがある。
そう、2日ぶりの風呂である。
せっかくだから最高の風呂に行きたい。
宮之浦周辺で最高の温泉と言えば……そう屋久島空港にある「縄文の宿まんてん」である!
入湯料1600円!すごい!
バスの時間的に1時間しか滞在できない。だが、風呂が最高なことは間違いないだろう。
そう、実は今日の僕を支えていたのは温泉。
気持ちいい温泉に入る、その一心だったのだ(笑)
17:20
縄文の宿まんてんへ。
本当に、魂が抜けそうになるほど気持ちいい風呂でした。
露天風呂を独り占めできて、思い残すことは無いんじゃないかって思った。
疲れが湯船に染み出す。体が軽くなっていく!生きててよかった!
さあ、風呂から上がったら夕飯。
宿の人に聞くと「潮騒」という店がオススメらしい。
頼むのはもちろん「とびうお唐揚げ」。屋久島と言えばこれです。
あまりのうまさに貪り食った結果、どう美味しかったのか考える暇もなかった(笑)
これはもう、屋久島に行って実際に食べてみてください!
21:00
酒を買い、満足して宿に帰ります。
さあ、本日のラストイベント、旅人の集いです。
僕は人見知りなんで、こういうイベントの前はかなり憂鬱になります。
ただ、思い切って行けば楽しいことは経験上分かってます。
今回も、仕事で来てる釣り好きのおじさんから話を聞いたり、旅で来てる人から話を聞いたりと、楽しい時間を過ごせました。
もちろん、屋久島0 to 0を成し遂げたと言えば、褒めてもらえます(笑)
参加してよかった!
23:30
2時間ほど語らったでしょうか。部屋に戻ると、倒れるように眠りました。
4時過ぎから歩きづめだったんだもの。もう起きてられなかった(笑)
せっかく買ったコーラさえ飲む前に、就寝。
屋久島ゼロ to ゼロ:二日目
二日目:鹿ノ沢小屋→新高塚小屋
22:00
寒すぎて起きました。
雨具上下着てるし、寝袋は最低使用温度2℃だし、大丈夫だと思ったんだけどな……。
しょうがないんで、ダウンを着込み寝ます。
寝つきが悪かったので、アンダー・ザ・ドーム(ホラードラマ)を見たり、クトゥルフTRPGのリプレイ(ホラー)を聞いたりして、睡魔が来るのを待ちました。
はい、ホラー成分の摂りすぎです(笑)
人っ子一人いない山中、テン泊という状況に心細さが……(笑)
明日の天気・景色など、楽しいことを考えるようにしたら寝られました。
2:00
……寒すぎる。
このまま寝ても死にはしませんが、朝には体中冷え切ってるでしょう。
仕方がないので、エマージェンシーシートを寝袋の外に巻きつけます。
やはり、エマージェンシーシートは必須アイテム。
温まり、すぐに寝ることができました。
6:30
起床。
寒さはありますが、体の芯までは冷えていません。
ますば朝ごはんをいただきましょう。
今朝のメニューはツナパンとハチミツパンです。
外に出てテントを見て爆笑しました。
こいつ、凍ってやがる!(笑)
どうりで寒いわけだよ!
今回の旅もエクストリームなことになってきたなー\(^o^)/
後でこの日のメモを見ると、
「最凍(高)の夜」
って書いてありました。テンションがおかしい(笑)
7:30
撤収準備完了。
リュックに付いてる袋には食パンが入っています。中に入れると潰れちゃうからね。
縦走中はずっとぶら下げてました。
ぼちぼち出発しましょう。 今日は予報通り、メチャクチャ天気がいいです。
朝から目に染みるような強さの日が射しています。
まず目指すは、九州次鋒「永田岳」!
鹿の沢小屋から永田岳への道ですが、始めは酷いです。
こんなハシゴ道とか、
こんな急勾配がずっと続きます。
昨日の疲れもあり割とキツイですが、行くしかありません。
8:00
30分は登り続けたでしょうか。
やっと景色が開けました!
ここからはご褒美コース。最高な稜線歩きの始まりです。
それにしても、天気がよい。
しかも、道もよい。なぜか整備された木道が始まりました。
ローソク岩っていうのが有名らしいです。
事前知識はありませんでしたが、一目で分かりました。
ちょくちょくロープ場もあります。
いくつ目かのロープ場を越え、開けた場所に出ると鹿がいました。
ロープ場登り切ったご褒美ですね!
9:50
永田岳の足元まで来ました。
最後はほぼ断崖絶壁の一枚岩を登ります。
僕にとっては一番の苦手分野なので、リュックをデポし取り掛かります。
真下から見上げて撮った写真です。
この一枚岩を、上の方にあるロープを頼りに登ります。
(上の方にある黒いのがロープです)
怖かったですが、まぁ何とかなるレベルでした。
アスレチック得意な人なら難なく登れると思います。
9:55
登頂!
そこには文字通りの360度パノラマが広がっていました。
しかも、天気は快晴……!
無理してでも屋久島に来てよかった。
今まで見てきた景色の中でも、三本の指に入る綺麗さでした。
10:10
一枚岩を下ります。
やっぱり怖い……。
次は、2km先の宮之浦岳を目指します。
さあ、岩を下ったあとは、最高の稜線歩きの続きです。
森林限界を超えている稜線です。
すなわち、
こういうこと!
楽しすぎて似たような写真を量産してました。
永田岳の下りでは、登山者とすれ違いました。
人と会うのは半日ぶりですね(笑)
絵画のような世界で、失いそうだった現実感を取り戻させてくれました。
10:50
焼野三叉路到着。
地図に水場マークがあったんで、給水する予定でした。
しかし、水場への道は見つからず。近くに川があったんで、適当に汲みました。
屋久島においては「水場マーク=近くに川がある」ってことなのかもしれません。
三叉路は、北東に行くと縄文杉方面、東南へ行くと宮之浦岳方面です。
今日の目的地は、縄文杉方面の新高塚小屋ですが……。
時間に余裕があるし、まずは宮之浦岳を目指します。
寄り道なんで、荷物はデポです。
ここらから人が増えてきました。
恐らく、宮之浦岳から縄文杉へ縦走する人たちでしょう。
時間はお昼時。
いよいよ太陽は高く上がり、空の青は紺碧へ。
強い太陽光に、景色の凄みも増していきます。
視界いっぱい山しか見えない、幸せな時間が続く。
12:20
頂上近くの巨石です。
この二枚岩の間を見ると、
小さな鳥居がありました。
山岳信仰でしょうか。巨石の間の僅かなスペースですが、とても良い雰囲気でした。
12:30
宮之浦岳登頂!
私が九州最高地点だ!
最高の景色の中、お昼にします。
山頂には人が10人程度いました。
で、おばちゃんたちが俗っぽい世間話をしてるんですね。
誰が誰とくっついたなんて、今はどうでもいいじゃない。
景色が良くても雰囲気がよろしくない……(笑)
おばちゃんたちよ、下世話なら下界でもできるぞ。今は景色を見なさい。
13:15
出発。
リュックデポ地点に戻ります。
最高な景色。言葉が尽きてきたんで、写真だけお届け。
14:30
平石岩屋着。
岩と岩の間に空間があり、雨風を防げるとか。
緊急時はここでのキャンプも認められてるそうです。
近くにある小さい祠が素敵。
さて、そろそろいい景色も見納めでしょうか。
視界の先には懐かしい森が見えてきました。
本当に本当に、楽しかった。あとは、山小屋まで距離を稼ぐのみです。
残雪にも負けず
ロープ場にも負けず
階段にも負けず
歩き続けます。
途中、開けた場所があって、奇跡の一枚が撮れました(笑)
15:40
新高塚小屋到着!
大学のサークルが大所帯で来ているらしく、メッチャ混んでます。
明日は雨ですが、仕方なくテン泊することにしました。
人に慣れた鹿を見たり、
初めての整備された水場に感動したり。
17:00
夜ご飯の時間です。
今日のメニューはカップ麺カレー in 青菜ご飯。
いつ食べても美味しい安定コンビでした。
もちろん食後はハチミツ紅茶をいただきます。
19:00
明日の天気は、雨です。
と言っても、今朝の情報ですが。(新高塚小屋は圏外でした)
昨日の予報だと、午前半ばから降り始めるとか。
ならば、やることは一つ。
早く出発し、行けるとこまで行く!
とはいえ、見知らぬ場所での雨登山。
プレッシャーもあります。
目を閉じると、瞼の裏には今日の景色が。
これだけ、いい景色を見られたのだから、1日くらいの雨はしょうがない。
頑張って、無事に下山しよう。
早朝登山へ備え、就寝。
屋久島ゼロ to ゼロ:一日目
一日目:栗生→鹿ノ沢小屋
5:30
栗生の「民宿ぽんかん」にて起床。
昨日は移動日。「電車→飛行機→バス→船→バス」と乗り継ぎ、屋久島 栗生まで来ました。
度重なる乗り換えと、一昨日の雪山登山(四阿山)とで、多少の疲れを感じます。
民宿ぽんかんは、とても居心地のよい宿でした。素泊まりなのに刺し身・白米をサービスしていただけたのは、本当にありがたかったです。(刺し身の魚は他のお客さんが釣ったものらしい)
春休み期間中は学割もあるそうなので、ぜひ利用してください。
栗生に泊まるなら「民宿ぽんかん」です!(恩返しの宣伝(笑))
6:15
菓子パンを食べ、荷造りし、事前予約したタクシーに乗り込みます。
大川林道入口まで行くと、タクシー代は5000円になりました。
道中、大川(おおこ)の滝に寄り安全祈願。
大川の滝は、滝壺に近づけるのが特徴です。迫力満点なんでオススメですね。
逆に、千尋の滝はつまんないです(笑)
全然近づけず、遠くから眺めることしかできないだけに。
6:30
大川林道入り口に到着。
タクシーとはここでお別れです。いよいよ登山開始だ。
今回使用するリュックは50Lです。
こいつを使うのは2回目ですが、テント・寝袋を入れて歩くのは初めてです。
リュックの重量は15kg。未知の重量に不安しかありませんね。
ペースを下げることで、体への負担を軽減する作戦でいきます。
歩き始めると、すぐに鹿・猿に出会いました。彼らに合うと屋久島に来たと実感しますね。
周りを見ても、熱帯の植物?みたいな植生です。
奥多摩が森なら、ここはジャングルですね。
しばし足を止め写真を撮り、のんびり歩いていると、あっという間に2時間経ちました。
依然として、関節や体調は好調を維持しています。
これなら大丈夫かも。少し気が楽になりました。
8:50
花山歩道入り口。
舗装路はこれにて終了、以後は登山道です。
それも……
「中級者向け」のな!
もしかして、思ったよりヤバい道だった?(゚∀゚)
とりあえず、近くの水場で水を汲み落ち着きましょう。
これが水場?いえ、普通の川ですね(笑)
屋久島流ダイナミック給水!
友人によると、屋久島の水は綺麗すぎて魚が棲めないとか。
そのため、直接飲んでも問題ないとのことです。
実際、屋久島の水場の大半は、普通の川です。
9:20
いよいよ、花山歩道へ。
ここからは、日本に5箇所しかない「原生自然環境保全地域」になります。
一言で言えば「昔ながらの大自然が残ってる地域」ですね。
以下は環境省のHPにあった、花山歩道に関する記述です。
屋久島は1,000m以上の山岳を有し、高温多雨の気候の下で、照葉樹林から亜高山帯まで植生の垂直分布をなす豊かな森林地帯を有しています。なかでも標高800~1700mの地域にはスギ林が発達し、ヤクスギと呼ばれる樹齢1,000年以上の巨木が多数残存し、世界的に貴重なものとなっています。本地域(※花山歩道のこと)は、屋久島の中で最もよく固有な林相を残しています。
花山歩道へ足を進めると、空気が変わりました。
なんだろう、この静謐な雰囲気は。歩みを止めると、梢が擦れる音、鳥の声が聞こえます。
周囲を見渡すと、そこには緑と茶色で構成される世界が広がっていました。
奥多摩とは、緑の色が異なります。
屋久島の緑は”深い”。いわゆる”深緑”って色です。
原生自然環境保全地域には「深緑の森」が広がっていました。
道中には、簡易看板とピンクの道標しかありません。
登山道は、確かに分かりにくい箇所もあります。
何回か、気づいたらミスコースしていることもありました。
そういう時は、道を正しく辿れていたところまで戻り、冷静に道標を探します。
確かに道は分かりにくいですが、冷静に対処すれば迷うほどではありません。
(※個人の感想です。実際に遭難した方もいらっしゃるので注意してください。)
それなりに歩くと、世界遺産の範囲内に入ります。
ここは、世界遺産であり原生自然環境保全でもある場所。
ある意味、屋久島一贅沢な場所かもしれません。
ここまで来ると、苔が強くなります。
苔にまみれた看板ですが、ズームすると
こうなります!苔なのに立体!
また、木々もより巨大に、個性的になってきました。
個性的でしょ?(笑)
11:30
森が霧がかってきました。屋久島の深緑には霧が生えます。
森の静謐な雰囲気は、「神秘的な雰囲気」にまで昇華されました。
こればかりは、写真を見てもらったほうが早いでしょう。
12:45
花山広場到達。
美しい水場にてダイナミック水分補給。
汲み終わり、顔を上げると美しい空間が広がっていました。
花山広場の木々の写真です。
そこのあなた。今、普通の森じゃんって思ったでしょ?
思ったよりヒョロヒョロじゃん、ってね。
でも違うんですよ。
写真の左下を、もう一度見てください。よく見るとリュックが見えるでしょ?
50Lのリュックと並んで、このサイズ感ですよ。
いかに巨大な木か分かってもらえると思います。
花山広場まで来ると、道中に神社の御神木レベルがゴロゴロいます。
中には、御神木が若木に見えてしまうレベルもいますよ(笑)
13:00
小休憩を経て出発。
30分ほど歩くと、木々のの密度が低くなってきました。
だいぶ標高上がってきたのかな?
森の雰囲気も、湿度低めのカラッとしたものに変わります。
14:20
突然視界が開けました!
いい景色なんで、まったり休憩しました。寝転がったり、読書したり、至高の時間。
15:50
大岩をすぎると、いよいよ道が酷くなってきました。
いよいよ勾配が大きくなり、ハシゴも出てきます。
このタイミングでの急勾配は辛い。
朝9時からずっと歩いてるからね。さすがに疲れてきた。
頑張って歩き続けると、止めとばかりに雪が出てきました。
3月でも雪あるのかよ……。チェーンスパイク持ってないよ……。
慎重に慎重に歩を進めます。半分溶けてる雪なので、
ズボッと沈み込む箇所もあります。
下に大石でもあれば、最悪捻挫しますね。けっこう怖かったです。
頑張った挑戦者にはご褒美を。
ところどころ開けるのが憎いね。
16:00
最後の渡りをぬけると……。
整備された歩道が!
人工物だ!!!
どうやら無事、鹿の沢小屋に到着したようです。
疲れはほどほど、関節も至って好調。今日の行程は大勝利ですね。
休むのは屋根を確保してから。
山小屋に泊まってもよかったのですが、「あること」をしたかったのでテント泊を選びました。
設営後は、お楽しみの夕食タイム。
今日は
・牛めし(アルファ米)
・食パン
・味噌汁
・蜂蜜いり紅茶
です。初めて食べたアルファ米ですが、意外と美味しくて驚きました。
食後は、山小屋周りを散策したり、読書をしたりとでノンビリしました。
そしていよいよ日が暮れて……
星空が出てきました!
もちろん、周囲には灯り一つありません。
そこには、今にも降ってきそうな、一面の星が。
今日、あえて山小屋泊を避けた理由、それは……
この写真を撮りたかったからです!
荷物でカメラの傾きを調整し、ISO3200・露出30秒で撮影しました。
最高の写真です。それ以上の言葉は野暮ってもんです。
20:00
就寝。
初めての山中テント泊ですが、不安よりも楽しさの方が上でした。
明日は永田岳と宮之浦岳。コース距離は10km切ってるし、余裕でしょう。
縦走初日は、最高の気分で眠りに就くことができました。
屋久島ゼロ to ゼロ:プロローグ
2015秋:谷川岳 - 本編
7:00
土合駅、谷川岳ベースプラザに到着。
天神尾根へ続くロープウェイを尻目に、スタートです。
湧き水。 味覚音痴で水の違いなんて分からないけど、この雰囲気だけでおいしく感じちゃいます。
登山口までは、アスファルトの道を歩きます。
堆積した落ち葉が朝日を反射し綺麗。朝特有の、澄んだ空気が気持ちいいです。
横を見ると雲一つない空が。今日は最高の一日になりそうだ……!
7:15
登山道入り口に着きました。最初は、ちょっと急な上り坂が続きます。
15分程度歩くと、だいぶ岩が増えてきました。道の勾配も上がってきてます。
木々も貧弱になっており、いよいよ森林限界が近くなってきました。
もはやこれは、登山道ではなくガレ場。いよいよ難コースが始まりそうな予感。
後輩に「久しぶりの登りきれるか分からない山だよ」と言ったけど、あまり信じてもらえなかった(笑)
でも、彼にこれだけ余裕があるってことは、何とかなるのかもしれない。そう自分に言い聞かせる。
出発から1時間経った頃でしょうか。
綺麗すぎる景色が!!!
と、ほぼ同時に始まる鎖場\(^o^)/
しかし、あまりに綺麗な景色に現実感が薄まったのか、案外すらすら登れます!
後輩が危なげなく登っていくルートを必死になぞります。
後輩の歩みに迷いはなく、安心してトレースできます。不思議と恐怖感はありません。
もちろん、ちょっと怖いと思う瞬間はあります。でもね、後ろを振り返れば
これですよ!!!もう怖さなんて吹っ切れるほどの絶景!
景色を見ただけで、多幸感が湧いてくる。
こえぇ~→景色でメンタル回復!→こえぇ~→景色でメンタル回復!→……
の無限ループ(笑)
前日が雨だったので、濡れている石も結構ありました。かなり怖かったはずなんだけど、あまりに楽しくてこれを書いてる時点で恐怖感が抜けてます(笑)
もちろん、ずっと鎖場ではなく、普通のガレ場もあります。西黒尾根は基本的に鎖場→ガレ場の繰り返しでした。(写真は後輩撮影)
9:15 ラクダの背(ラクダのコブ)
9:20 ラクダのコル
このへんは余裕がなくて写真撮れませんでした(笑)
怖さを非現実的な眺望で抑えてる状態だからね?集中力が切れて、恐怖に呑まれたら動けなくなるからね?
写真撮ってる場合じゃなかったのよ(笑)
これは後輩が撮ってくれた写真です。今見るとかなり怖い所登ってるな(笑)
ちょっと手汗が出てきた。
だいぶ標高が上がってきました。
出発地点から500m登り、現在の標高は1500mを越えています。
綺麗な景色というのは飽きるものですが、ここは絶景過ぎてまだ飽きません。
標高に比例して眺望も良くなるわけで、これ以上良くなってどうするの、死ぬの!?ってツッコミながら登ってました(笑)
10:10 ザンゲ岩
ここまで来ればあと一息。
鎖場より、ガレ場が多くなります。(黄色くペイントしてあるのが道です)
心の余裕が生まれ、やっと撮影を再開することができました。
にしても、こんな景色見ちゃったら、もう奥多摩に行けないな(笑)
山の後ろにまた山、そんなのが地平線まで広がってるわけですよ。
後輩が「あそこにあるのは赤城山で、あそこは〜〜」と解説してくれますが、全然分からない。 方向音痴な人には全部同じに見える(笑)
そんな僕でも2つだけ分かる山がありました。
一つ目は言うまでもなく富士山です。二つ目は、
平標山/ ̄ ̄ ̄\
ブルドーザーで均したの?ってくらいぺったんこ!
そういえば、僕の雪山デビューは去年の平標山なんですよね。
思い出の山だけに、見られて嬉しかったです!
10:35
無事、天神尾根に合流!これにて、ヤバい鎖場は終了!
生還した喜びと、やり切った達成感に震えます!
合流点にあるのは、ヤマノススメでお馴染みの看板です。
ここからはあおいちゃんでも登れるコースだと思うと、めっちゃ気楽だ(笑)
10:45
谷川岳山頂トマの耳に着きました。(写真は帰り道に撮ったもの)
休日だと混んでいる谷川岳ですが、11月中旬の平日ならば人もまばら。
ゆっくりと写真を撮れて最高の気分です。
満足したら、第二の山頂オキの耳を目指します。
まぁ、もう見えてるんだけどね(笑)
こんなに見晴らしのいい尾根を歩けるなんて、僕は幸せです!
11:00
谷川岳オキの耳 到着。
うん、最高!(絶景すぎてこれしか出てこない笑)
ここには時間をとらず、すぐ出発します。
次に目指すは一ノ倉沢!去年のツーリングで行った、一ノ倉沢の上です。
後輩のお母さんが天神尾根から登り、ここで引き返したという鳥居です。
ここから先は、鎖場を含むガレ場が復活します。とは言え、西黒尾根と比べれば大したことない。
しかも相変わらず最高の景色!
徐々に雲が出てきたものの、依然として地平線まで見渡せます。
12:00
あっという間に一ノ倉岳に着きました。
ここでお昼。お湯を沸かしてカップ麺です。
一ノ倉岳山頂からの景色。
こんな景色を見ながらの食事なんて、贅沢すぎるでしょ……!
12:45
出発。
だいぶ雲が出てきました。もう景色は期待できないかと思いきや……?
雲が来て、
山に引っかかって、停滞してる!
現実離れした風景に目が点になりました。
行き道はスルーした、一ノ倉沢大絶壁に座す!
あまりに非現実的すぎて、不思議と恐怖はないです。
ちなみに、奥にある道路までの高低差は1000mらしいですよ(笑)
大絶壁で遊んでいると、さらに雲が増えてきました。
時折、薄い雲が僕達の方へも流れてきます。
今度こそ絶景とはお別れなのか……?
謎のバンザイポーズをする後輩。その視線の先には
ブロッケンの妖怪だ!!!
すごい、まさかこんな所で見られるなんて思わなかった!
永遠の仔を読んだばかりの僕には最高のプレゼントでした。
13:55
オキの耳
14:05
トマの耳
雲は厚くなり続け、西黒尾根との合流地点に行く頃には、ガスった視界が続くようになりました。
だけど、もういいんです。絶景は堪能しつくした上に、ブロッケンの妖怪まで見れたのですから!
後輩と「最高だったね!」と話しながら、天神尾根を下ります。
天神尾根は基本が木道とガレ場、たまにしょぼい鎖場(ただし鎖は使わずにクリアできる)という構成。
意外と急ですが、普通の大人ならクリアできるだろうという程度です。
景色がつまらないので、写真を撮るでもなく黙々と下ります。
15:35
天神平到着!
最後は、ロープウェイで土合までワープします。
16:00
土合駅の車デポ地点まで戻ってきました。
これにて無事下山!
この後は温泉に行き、夜ご飯を食べ、帰宅です。
夜ご飯は後輩オススメの店「永井食堂」に行きました。ここの名物はモツ煮込みです。
「もつ」には肉が噛みきれず食べにくい印象しかなく、あまり期待せず入店したのですが……。
あまりに美味さに衝撃を受けました(笑)
旨味の効いたこってり味噌味に、ピリッと七味が効いた煮込み汁。
軽く噛めばほどける、柔らかい肉。
もう肉に絡んだ旨汁で、白米を運ぶ箸が止まらない!
いやー、もつ煮込みってこんなに美味しい料理だったのね……(笑)
登山から夕飯まで、すべてにおいて満足した山行でした。
今回は自分のスキルを越えるコースだけに、無事下山できて本当に良かったと思います。
鎖場への自信もちょっとは(ちょっとだけですよ!)付いたし、終わってみれば楽しさしかない山行でした。
絶対にまた行こう!いや、行かざるを得ない!!!
2015秋:谷川岳 - 序章(という名の自分語り)
小学生の頃から、アスレチックを避けてきた。
鉄棒の逆上がりは出来なかったし、登り棒は落ちないようしがみつくので精一杯だった。
運動神経の壊滅的な僕にとって、アスレチックに登るなんて夢のまた夢だった。
登山という趣味を始めてから1年経った。何回か鎖場を経験はしたが、ヒヤリハットの連続だった。
丹沢・行者ヶ岳ではずり落ちかけ、金峰山の岩にはそもそも取り付けず(一緒に行った友人達は中腹まで登ってた)、大月・御前山の下りでは高度感に体が強張った。
地図に「鎖場」の文字を見ると、「本当に越えられるのか?引き返すハメになるんじゃないか?」と思ってしまう。「鎖場」の文字を見るのが憂鬱になりつつあった。
翌日が「バイトなし・天気良好」なある日のこと。
明日登山に行くことは決めたものの、ちょうどいい場所を見つけられずにいた。そんな時、サイクリングサークルの後輩から
「谷川岳・武尊岳・両神山のどれか行きません?」
という、神がかったお誘いが来る。
車を出せる人からの思ってもみないお誘いにテンションは沸騰。これ、絶対楽しいわ……!
明日行く場所は鎖場だらけであることを、今の僕はまだ知らない。 (続く)